第二話


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第二話 人生の転機

 高野慎也は、北海道四代目の根っからの道産子である。家は郵便局や石材業、運送業などをしており、この田舎では村長的な役割を担う郷主である。明治中期に曽祖父母ふたりで北海道に渡って以来、今は地元の親族は四百人を超え、祖父の弟は参議院議員にまでなった北海道の名門である。ただ、親族の偉大さや外見とは違って、慎也の一家だけは、大変な苦労を乗り越えてきた、信仰深い側面があった。祖母の働き過ぎによる過労死、兄である長男の戦死、後妻の義母と異母兄弟の存在、そんな中で家督を継いだ父信二は、早くに祖父まで失い、次男から長男となった一家の大黒柱として、異母兄弟を含めて六人兄弟と自分の家庭、そして、後妻の義母の生計まで責任を持たなければならない立場を生きてきた。信心という面では、祖父の代に、村で唯一の寺院に土地を寄贈した経緯があった。祖父は寺の総代を務めていたし、母の実家の大門家も四国の血を引く信心深い家系であった。

 慎也の家には、いくら資産があったとしても、これだけの人数が食べてゆくのには並々ならぬ厳しさがあった。父信二だけは、郵便局長としての役職上悠々としてはいたが、弟や妹たちは、腹違いであっても助け合って働かなければ、生きてゆけないのである。冬の暖房のために山の木を切り、夏の間に乾燥しておかなければならない。また、近くの石材採掘現場での労働に励み、川の砂利運搬の運転手を務め、時期によっては近所の農作業の手伝いをする。もちろん、郵便局でも夜中の電報などは、家族が分担して届けていた。そんな兄弟たちをまとめつつ、村のまとめ役をも、父は担っていたのだ。

 慎也にとって父は神様とも言うべき、絶対的で力強い存在であったが、父母から怒られることも、将来について指図されることもなかった。ひまがなかったのである。したがって、父母よりもむしろ、父の兄弟姉妹たちとともに育ったといっても過言ではない。ただ父母は、次男坊である慎也のやりたい事だけは自由にさせてくれたし、興味のあるものにはどんどんと学ぶ機会を与えてくれる存在だった。慎也は、父の兄弟姉妹たちから、仲良く働くことの喜びを知り、父母からは、自分の興味に自ら没入して自分を築いてゆく自尊心を与えられた。

 そんな環境のお陰で、慎也は、中学生になる頃から、学業からスポーツ、生徒会と、あらゆる才能において抜群な能力を示し出した。歴史が百年程度の村であるが、開拓依頼の天才として、そのよくはしゃぐ陽気さもあって、「村の太陽さん」と称されるようになっていた。慎也が東大を卒業して地元に戻るということは、どれほどの期待がかけられていたか、同じ東大卒の仲間の想像をはるかに超えるものがあった。それは北海道の厳しい生活感と、それに耐えてきた強靭な魂の集積という背景も、大きな要因であったのだろう。だから、慎也にとって、自分の為すべき道は政治の道であり、行政の道であり、事業の道でしか、選択する余地がなかったのである。

以下略....(近年中に、書籍にて出版致します。)

注;登場人物は仮称ですが、歴史的に有名な偉人は本名を用いております。