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弘法大師の入唐求法
―21世紀の日中関係を考える―

皆様お元気ですか?
1年ぶりで法話を更新させていただきます。
昨今の世界情勢はめまぐるしく変化しておりますが、
こうして拙僧の愚論に、いつも変わりなく耳を傾けてくださる方が
いらっしゃいますことに心より感謝申し上げます。  合掌
では、法話第10話をお贈り致します。

日本経済がデフレから抜けられずに低迷する
一方で、隣国中国の急激な経済成長と、わが国への安価な
農産物や工業製品の輸入増大が、大きな時代の潮流となっております。
日本の経済成長を支えた多くの技術者たちが、今中国という新天地を得て
縦横無尽に活躍しているようです。このことは日本経済にとって脅威
と見る向きもありますが、一方で欧米との国際競争において
中国の存在は日本にとって心強いパートナーとして
見る向きもあります。

日本と中国は2000年にも及ぶ深い交流のつながりがあります。
戦後は日本が中国に対して技術援助や文化指導をする立場となっておりますが、
日中の歴史の大部分は、大国中国から日本が学んだ側であり、日本の文化のほとん
どが中国からやってきたものである
ことは事実です。

さて、仏教を通しての日中関係について考えてみましょう。
昨今中国の仏教遺跡の復興が進み、仏教徒の数もにわかに増えているようです。
歴史遺跡の多い西安、洛陽、敦煌、杭州、五台山等々、大きな寺院に礼拝に訪れる人が
増え、寺で修行する僧侶も増えてきております。これも経済関係と同じように
かつては日本が中国から学んだものを逆に、日本が指導して復旧して
いるというのが、現状です。拙僧はこれを「恩返し」
考えております。

弘法大師の中国での足跡についても、高野山大学等の学術調査
が進み、福州から長安までの旅程や長安における当時の寺院について
多くの遺跡発掘がなされ、特に恵果和尚から密教を伝授された青龍寺については、
当時と同じ場所に「空海記念館」が建立され、日本から多くの信者の訪れる地となって
おりますし、中国でも弘法大師は有名で、多くの信仰者がおります。

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お大師さんは804年遣唐船により唐に渡り、長安(今の西安)を中心に
2年間の足跡を残しました。人間としての弘法大師空海にとって、この唐での
2年間は、その後の日本での突出した天才的偉業を生み出す原点としてとらえること
ができます。恵果和尚からの密教両部大法の伝授と相承がなければ、人間空海
はただの私度僧に過ぎなかったことでしょう。

玄宗皇帝の開元四年(716年)、善無畏が陸路長安に入ってから、
武宗の会昌五年(845年)の仏教弾圧までの130年間、中国では中期密教を中心とした
仏教文化が開花
しました。この間、金剛智、不空、一行、恵果を中心として、インドから
伝来した密教が相承され、唐代各皇帝とも密接な結びつきを持ちました。
中国の歴史上、唯一無比の仏教隆盛期であったと言えますし、これほど
長く平和な都市文明の発達した時期はなかったと言えます。
仏教に限らず、李白、杜甫らの詩人が出た時期でもありますし、
王義之らの書家の活躍した時期でもあります。

日本の平安文化は、弘法大師を初めとする入唐僧によって、中国から
学び伝えられた文化を基礎として、「ひらがな」等の民族固有の文化の創出の
エネルギーを発して、今日までの日本文化の基礎となったのです。仏教はもちろん、
漢文、詩歌、楽曲、住居、都市計画から食物、医療、お盆や正月の生活風習に至るまで、
日本文化の多くは、この唐代に中国から運ばれたものが基礎となっていますし、
その後の宋代、明代、清代とも同じような文化伝播の流れが続いて今日に至りました。
この歴史の流れを鑑みると、日本は中国から多くの「恩」を受けた国だと
いうことが言えます。

拙僧が「今は中国への恩返しの時代」と言ったのは、1000年以上
に及ぶ長い歴史を背景とした言葉であり、そのさきがけとなったのが弘法大師空海
であったということが言えます。先の戦争において日本は中国へ侵略し、戦後もその
罪のために日中関係は、加害者と被害者という関係ばかりが強調されてきました。
しかし、元寇の歴史もあり、お互いの過ちに目を奪われて、長い歴史の流れを
決して忘れてはいけません。今やっとそういうことが冷静に
語れる時代になったと、お大師さんが喜んでらっしゃるの
ではないでしょうか。

さらに中国が復興し、仏教や儒教、道教等本来の文化に回帰する時、
日中の戦後処理の問題や歴史観の問題の解決もさることながら、毛沢東の文化
大革命によって、領地を侵略され100万人以上の犠牲者を出したチベット問題の解決
を切に願って止みません。チベット仏教の伝統と文化は、世界遺産として値する
貴重な宝物です。世界の世論は決して現状を認めることはありません。
東西融合時代の人類愛がこの問題を解決するとき、世界は一つとなり、
われわれは「地球市民」となることを信じます。
貧道物の戯論をどうかご容赦のほど.......
21世紀が「精神性向上」の時代でありますように.....

南無大師遍照金剛

合掌
 


2003年3月21日 高野山真言宗 権教師 岩本欣善