− 日本初の授戒師鑑真和上の人生 −皆様からさまざまなメールが届いておりますが、
「悟り」
を開きたいとか
「法力を身につけたい」
「幸運を呼ぶ方法はないか」
とかいったご質問をよくいただきます。
「悟り」とは本当の自分に気づき、その心を守り通すことです。
「悟り」を深める仏道修行の一番最初に決心すべき大事なこと。
それが戒律を守る誓い、すなわち神仏との約束を一生守り通す強い決心です。
わたくしは現代の社会で「約束を守る」ことの大切さを痛感しております。
皆さんは「天平の甍」という映画をご存知ですか?
奈良時代に中国から日本に渡ってきた日本初の授戒師鑑真和上様の人生を描いたドラマです。
唐の授戒師を探す使命を持って、奈良時代日本から数名の若い僧侶が遣唐船で唐に渡りました。
当時の中国では仏教の僧侶が海を渡ることは国禁であり、
まして生きて日本につける保証もないため、エリートの僧侶は皆敬遠したのですが、
律宗の導師鑑真和上様はこの若い日本の僧侶のために弟子ととも渡航することを約束したのです。
しかし渡航の途中で、何度も警備隊に捕まり、
あるいは嵐に合って船が流され、多くの弟子が病死し、
二十余年の歳月が流れました。その間鑑真和上様は長旅の疲れで失明し、
あきらめかけたその時に待望の遣唐船が日本からやって来ます。
日本の特使が皇帝の許可を得て、いよいよ渡航の懇願に鑑真和上様の元にやって来た時には、
和上様はすでに六十歳を超え、目も見えない状態だったのです。
これを初めて知って日本僧は涙を流して謝罪し、あきらめようとするのですが、
和上様は「約束だから連れて行きなさい。」と頑として動じなかったといいます。
信者も別れを惜しみ、警備兵も慰留を懇願するのですが、
「約束を破るくらいなら、わたしを処刑してください。」
と言い放ったので、やむなく日本へ和上様を送ることを認め、
皆が涙ながらに最後の別れを告げたのです。
こうして日本に渡って来た鑑真和上様によって
日本仏教界は入道者に受戒の誓いをさせる事が可能になり、
僧侶にならんとする者が増え、今日の普及を見たのです。
約束を守ることの大切さを人生をかけてお教えくださった鑑真和上様に
わたくしはただただ手を合わせるのみです。
黙祷合掌
神仏との約束とは、法律や会社の契約等世間の約束事とは違ったところにあります。
すなわち「一生人の心を裏切らないこと」です。もちろん自分の心もです!!
お釈迦様は「人を裏切ることなく人生を送るものは皆仏である。」とおっしゃりました。
皆様も「幸運を呼ぶ力」を身につけたいのであれば、
ぜひご自分の人生を見つめなおしてくださいませ。
南無大師遍照金剛
合掌
2000年1月21日 高野山真言宗 権教師 岩本欣善